「筋膜リリース」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
整体院やカイロプラティックサロンに通わず、手軽に一人でできるセルフケアとして、大きな注目を集めているマッサージです。
もともとは、セルフケアに敏感なアスリートやボディビルダーの間でのみ行われていましたが、近年、肩こりや腰痛に効果があるとして、テレビなどで紹介され、一般にも普及してきています。
今回は、筋膜リリースの効果的な正しいやり方と、筋膜についての基本知識を紹介します。
紹介された主なテレビ番組
中居正広の金曜日のスマイルたちへ
TBSテレビ
2017年1月20日(金)
第1弾「1日3分でOK 筋膜リリースストレッチ」
2017年2月10日(金)
第2弾「肩と腰が楽になる 筋膜リリース」
世界一受けたい授業
日本テレビ
2016年1月9日(土)
「現代型肩こり解消ストレッチ」
ためしてガッテン(ガッテン!)
NHK総合
2015年9月9日(水)
「頑固な肩コリ解消!しわを伸ばす筋膜リリース」
筋膜とは
筋膜リリースについての話をする前に、筋膜についての基本的な説明をします。
筋膜のことを知ることで、筋膜リリースの仕組みへの理解が深まり、肩こり、腰痛へのより効果的なアプローチが可能となるので、是非読んでください。
筋膜の成り立ち
筋膜は、コラーゲン繊維とエラスチン繊維から構成されている、筋肉を包みこむ膜のことです。弾力性があるこの膜は、浅筋膜、深筋膜、筋外膜、筋周膜、筋内膜の5つからなります。筋膜は、動きに合わせて、自由自在に形を変えることで、身体に加わった緊張をコントロールしています。
筋膜の働き
筋膜は、ただの組織間の仕切りではなく、組織同士を結びつけることで、筋肉がズレないよう固定し、神経やリンパ管の通路を作る働きをします。まるで「全身タイツ」のように、頭から足の先まで、身体全体に張り巡らされているため、理学療法の世界では「第二の骨格」とも呼ばれています。
肩こり、腰痛の原因
筋膜の癒着
本来の状態であれば、身体の動きを阻害することがない筋膜ですが、デスクワークなど、同じ姿勢をずっと続けていると、細胞外基質の流動性が落ち、ドロドロになってしまいます。そうなると、筋膜同士、あるいは内臓や血管などの他の組織とくっつき、ゼラチンのように固まってしまいます。これが筋膜の癒着です。
虚血状態
筋膜の癒着が発生すると、筋膜がねじれ、凝り固まってしまいます。ひどい場合は、ミルフィーユのように癒着が積み重なって、コブやしこりができます。これにより、血流が滞るのが「虚血」です。虚血状態に陥ると、リンパの流れも滞るため、疲労物質が身体に滞留し、痛み引き起こします。これが、肩こりや腰痛の正体の一つとされています。
筋膜の癒着状態チェック
筋膜リリースをする前に、まずは簡易なチェックで筋膜の状態を確かめてみましょう。
両手を耳の横で上げる
一番簡単なチェック方法は、手の平を下にしながら肘を水平に伸ばし、そのまま腕をバンザイして、耳の横まで上げる方法です。もしも上げた両腕が耳から離れてしまう場合は、かなり分厚く筋膜が癒着してしまっている可能性が高いです。
背中で手を組む
もう一つのチェック方法は、背中の後ろで手を組む方法です。先のバンザイができた人でも、これはできない人も多いです。左右両方で組むことができた場合は、筋膜が正常な状態であることが予想されます。もし片方でも、組めなかったり、指がつかなければ、筋膜が癒着している可能性が高いです。
筋膜リリースとは
いよいよ本題の、筋膜リリースについてです。
筋膜リリースとは、癒着による筋膜のねじれや縮みを、正常な状態に戻すボディケアです。
日本では、近年になって脚光を浴び始めましたが、実は海外では、1970年代から研究が進められており、意外と長い歴史があります。
英語では、Myofascial「筋膜の」Release「解放」を略して、”MFR”と呼びます。
ちなみに、民間療法では「筋膜はがし」という治療法もありますが、筋膜を無理やりはがすことは、筋膜を傷つけてしまう恐れがあるため、一般的には推奨されていません。
ストレッチとの違い
ストレッチは、個別の筋肉を伸ばすことで、柔軟性の向上と関節の可動域を広げることが目的です。一方、筋膜リリースは、癒着している筋膜を伸ばすことで、身体の歪みを整えることを目的としています。アプローチの方法と目的は少し違いますが、どちらも似たようなものなので、この2つを厳密に区別する必要はないでしょう。
マッサージとの違い
マッサージは、ターゲットの筋肉を局所的に「点」で強く刺激し、こわばった筋肉をもみほぐすことが目的です。一方、筋膜リリースは、ターゲットの筋膜を広範囲に「面」で引き伸ばし、身体の歪みを整えることを目的としています。マッサージは、解決にスポットをあてた対症療法、筋膜リリースは、予防にもスポットをあてた根治療法といえます。
筋膜リリースの注意点
筋膜リリースを効果的に行うための注意点です。
正しいやり方で行えば安全な筋膜リリースですが、一部の人には、セルフリリースはおすすめできないので、注意してください。
ゆっくりと穏やかに
筋膜リリースは、よじれた筋膜を少しづつほぐしていく作業です。そのため、勢いをつけて無理に伸ばしたり、痛みを我慢することはやめましょう。ゆっくり呼吸をしながら「固形バターが溶けるようなイメージ」を持つと効果的だそうです。リリース後は、常温の水をコップ1杯飲むことで、組織内に蓄積した有害物質を流し去ることができます。
おすすめできない人
急性リウマチ関節炎、動脈瘤、悪性腫瘍・癌などを患っている人、縫合部や、開放創がある人は、セルフリリースは控え、理学療法士の指導の下で行ってください。また、筋膜リリース後に逆に痛くなった場合は、病気が隠れていることがあるので、病院へ行きましょう。
筋膜リリースのやり方
筋膜リリースの具体的なやり方についてです。
ここでは、「金スマ」でも紹介された、2つの代表的な筋膜リリース方法を紹介します。
それぞれ、肩こりと腰痛に効果が高い筋膜リリースですが、筋膜は全身でつながっているため、膝や首など、別の部位の調子が良くなることもあります。
リリース中は呼吸を止めず、穏やかにゆっくりと行いましょう。
肩こり改善の筋膜リリース
このリリースでは、肩こりの原因の大部分を占めている、肩甲骨周りの筋膜をリリースします。まずは、片方の腕を頭の上、もう片方の腕を背中の後ろにやります。肘はできるだけ直角に曲がるように意識してください。これが基本のポーズとなります。
次に、後ろから見て反時計回りに腕を動かし、20秒そのままキープします。肩甲骨を回すときに、肘が鋭角に曲がってしまったり、身体が傾いてしまわないよう注意してください。終わったら腕を入れ替えて、反対も同じように行います。
さらに効果をあげたい場合は、腕を上げている側の足を前に出してクロスし、身体を徐々に倒すことで、横側全体をリリースします。交差させている両足の膝が離れないようにするのがポイントです。また、骨盤はできるだけ地面と平行になるように意識しましょう。この状態を20秒キープし、首、肩甲骨、肩、背骨をつなぐ筋膜をほぐします。終わったら腕を入れ替えて、反対も同じように行います。
腰痛改善の筋膜リリース
このリリースでは、腰痛の原因の大部分を占めている、太ももの裏「ハムストリング」の筋膜をリリースします。まずは、椅子に座り、低めの台に片足をのせます。台が見つからない場合は、厚めの本やペットボトルでも構いません。膝を軽く曲げるのがポイントです。
両手を骨盤の後ろに当てて、身体と一緒に骨盤を前に倒していきます。腰が丸まったり、膝が伸びきったりしないよう注意してください。この状態で30秒キープします。終わったら足を入れ替えて、反対も同じように行います。左右で各3回ずつ繰り返すと、より効果的です。
ワンランク上の筋膜リリース
筋膜リリースは、道具を使わずに、机とイスだけで行っても効果があります。
しかし、専用の道具を使用することで、さらに効果的に、さらに様々な部位の癒着をはがすことができます。
今回紹介するのは、多くのアスリートも練習前のウォームアップ、クーリングオフに使用している「グリッドフォームローラー」です。
何万円もする特別な機器ではないので、ボディケア用として自宅に一つ持つことをおすすめします。
トリガーポイント(TRIGGER POINT)
グリッドフォームローラー
基本情報
商品名:The GRID Foam Roller
メーカー:Trigger Point Performance, Inc.
定価:6,500円
直径:14cm
長さ:33cm
重量:604g
素材:EVA樹脂
カラー:5パターン
おすすめのポイント
現在、筋膜リリースローラーは、様々なメーカーが類似品を販売していますが、「グリッドフォームローラー」は、そのパイオニアとして、世界中で一番人気のあるローラーです。
一見シンプルな作りですが、マッサージセラピストの手技を再現する特殊構造になっており、筋膜の癒着による痛みの誘発点「トリガーポイント」を、効果的に刺激することができます。
空洞の中芯部には、ABS樹脂構造が採用されており、安定して体重を支えることが可能です。
体重が100kg以上ある私の友達も、1年以上使用しているため、体重に不安がある人でも安心して使用できるでしょう。
グリッドフォームローラの使い方については、箱の説明書に記載されているほか、公式サイトに詳しく掲載されています。
グリッドフォームローラーと合わせて使用すると効果的な「マッサージボール」もあり、テニスボールを使用したリリース方法に使用できます。
テニスボールより耐久性に優れ、変形しにくいEVAフォーム素材を採用しているため、手が届きにくい深い部分の筋膜をピンポイントで刺激できます。
おすすめの筋膜リリース本
竹井 仁 先生の本
「金スマ」や「世界一受けたい授業」にも出演した、日本における筋膜研究の第一人者、首都大学東京大学院 竹井 仁 教授の本です。筋膜についての医学的な説明から、一人でできる具体的なリリース方法まで、筋膜リリースについての全てが詰め込まれています。解剖学、生理学、運動学に通じた、竹井教授にしか書けない、至高の一冊です。
滝澤 幸一 先生の本
日本オリンピック強化スタッフとしても活躍している、鍼灸師の滝澤 幸一 先生の本です。肩こり、腰痛、頭痛、ひざ痛、股関節痛など、痛みがある各部位に対する、具体的なアプローチ方法が掲載されています。道具を使用したリリース方法も多く紹介されているため、グリッドフォームローラーを使いながら読むと、さらに効果的です。