プロスポーツ選手が、紐のようなネックレスを首に付けているのを見たことがあるでしょうか。
色々な形、大きさ、素材があるこのアクセサリー、実は単なるファッションアイテムではなく、ファイテン株式会社(Phiten Co., Ltd.)がアスリートの身体能力を引き出すために開発した、れっきとしたスポーツ商品です。
ここでは、ただ身に付けるだけで「肩こりが治る」「身体能力が上昇する」という売り文句が、いかにも怪しいファイテンの商品について、科学的視点と実際に使用した経験から、その効果を解明していきます。
ファイテン株式会社とは
治療院からスタート
ファイテン株式会社は、京都府京都市中京区に本社を置く、スポーツ関連商品等の販売を行う会社です。設立は昭和58年と意外に歴史が古く、当時、治療院で施術師をしながら、独自の医療技術を研究していた、平田好宏 代表取締役が創業しました。現在では「すべては健康を支えるために」のスローガンのもと、国内外200以上の店舗を持つ、年商200億円を超える大企業になっています。
ファイテン商品の愛用者
ファイテンを愛用している著名人には、広告塔にもなっている男子フィギュアスケートの羽生結弦 選手、プロ野球のダルビッシュ有 選手、プロゴルファーの松山英樹 選手をはじめ、各分野のトップアスリートが多数います。その人気は国内にとどまらず、2007年にはメジャーリーガーが試合や練習時にグラウンドで着用する製品に認可されるライセンス「MLBオーセンティック・コレクション」に日本の企業として初めて認定されました。
ファイテンの商品
ファイテンは現在、MLBオーセンティック・コレクションに認定されたネックレス、テープ、ブレスレットだけでなく、スキンケアクリームやサプリメント、インナーウェア、枕や布団といった寝具まで、幅広いバリエーションの商品を展開しています。
ここでは、ファイテンの代名詞とも言える、テープとネックレスの2商品を紹介します。
チタンテープ
一つ目は、ファイテン株式会社が世に出るきっかけともなった商品「チタンテープ」です。
この商品のオリジナルは、平田代表が治療院時代に発明した、特殊加工を施した石英のガラス球です。
このガラス球をテープで貼り付けた治療がよく効くと口コミで話題になり、その噂を聞いた、甲子園常連の強豪校、滋賀県立八幡商業高校の林監督(当時)がこれを試し、その抜群の効果に驚き即採用を決め、夏の甲子園に出場を決めたという逸話もあります。
現在の商品は、石英のガラス球ではなく、より軽量で安価な炭化チタンを粘着面にコーティングしています。
テープには、気になるところにピンポイントで使用できる、丸テープタイプのパワーテープ、関節などをカバーできる大判タイプ、広範囲に使用できるロールタイプなど、用途に応じた様々な種類があります。
パワーテープは、多くのファイテン公式ショップで無料で試用することができます。
購入前にその効果を試したい方は、是非一枚もらって試すと良いでしょう。
ファイテン公式ショップ一覧
肩こりや腰痛をお持ちの方は、信じられないくらい効くその効果に驚くかもしれません。
RAKUWAネック
二つ目は、ファイテンの看板商品であるネックレス「RAKUWAネック」です。
RAKUWAにはアクアチタンが使用されており、その含浸濃度や方法によって、いくつかの種類に分かれています。
シリーズには、含浸濃度の高いXシリーズ、磁気の力を使用した磁気シリーズがあります。
中でも最もスタンダードな商品がXシリーズです。
Xシリーズは「X1」「X30」「X50」「X100」の4段階に分かれており、それぞれ、含浸濃度が1倍、30倍、50倍、100倍となっています。
含浸濃度が高いほど効果が高いとされており、価格も上がります。
RAKUWAネックもパワーテープと同様、多くのファイテン公式ショップで無料試着することができます。
購入前にその効果を実感したい方は、ファイテン公式店舗で試着してみましょう。
ファイテン公式ショップ一覧
身に着けた瞬間、ペットボトルが軽くなるという、不思議な体験をやらされますが、この現象にはカラクリがあります。
詳細はページ下部のまとめに書きます。
ファイテンの効果
様々な視点から検証されている、ファイテン商品の効果について説明します。
ファイテン技術のメカニズム
ファイテンが主張するファイテン商品の効果には、ストレス解消、疲労回復、筋肉リラックス効果などがあります。
その効果を支えるのが、金属をナノレベルで水の中に分散させるファイテンの特許技術「水溶化メタル技術」です。
メカニズムは単純で、水溶化メタル技術を施した素材を身につけると、身に付けた部位の周辺に流れるごく微弱な電気「生体電流」の流れを整えられ、血中のストレス濃度が下がり、代謝が促進されるという仕組みだそうです。
生体電流を整える治療法「微弱電流療法」は、比較的古くから整骨院などで取り入れられています。
有名な例としては、元イングランド代表のデヴィッド・ベッカム選手が、2002年FIFAワールドカップ直前に左足の第二中足骨を骨折した際の治療に用いられたことで話題になりました。
科学的評価
現代の医学では「生体電流」について、まだ未解明の部分が多いため、残念ながらファイテンが主張する上記メカニズムを支持する明確な証拠(エビデンス)はありません。
そのため、厚生労働省による医薬品としての認可も下りていません。
しかし、いくつかの実証実験において、その効果が検証されていますので、ここではその結果を紹介します。
京都府立医科大学での実験
ファイテンの特許技術である「水溶化メタル技術」による「アクアチタン」に関する研究報告が、2013年に発表されています。
この報告は、京都府立医科大学の学長が代表を務める「アクアメタル研究会」によってされました。
報告によると、3年間に及ぶ、アクアチタンに関する検証の結果、「なぜ?」というメカニズムは、ついに解明できなかったそうです。
しかし、アクアチタンを含む素材の部屋と、含まない素材の部屋で被験者を5日間生活させた観測実験の結果、両部屋間で血中ストレスホルモン濃度の上昇幅に優位差が認められ、アクアチタンのリラックス効果が認められました。
ただしこの結果から確認されたのは、あくまでもアクアチタンのリラックス効果であり、ファイテン商品全般に関するリラックス効果ではありません。
ファイテンの主張としては、効果を生み出しているのはチタンに付加されたファイテンテクノロジーなので、チタンは「錆びない」「アレルギー反応が少ない」といった理由から選ばれた、「器」に過ぎないとしています。
そのため、この実証結果は、アクアチタンを使用した「RAKUWAネック」などの主力商品の効果を認める結果であり、ファイテンがアクアチタンよりも上位に位置づけている「水晶ネックレス」などの効果を肯定するものではありません。
早大生による卒業論文
「CiNii Articles」や「Google Scholar」を検索しましたが、アクアチタンなどに関する実験は頻繁に行われているようですが、ファイテンの商品そのものに対する検証実験のデータは、見つけることができませんでした。
そんな中、唯一ヒットしたのが、2008年に提出された、早稲田大学学生による「ファイテンが身体に及ぼす影響」というタイトルの卒業論文です。
この実験では、早稲田大学バドミントン部に在籍する16名の大学生の「全身反応速度」「筋力(握力)」「柔軟性(立位体前屈)」において、ファイテン商品(どの商品かは言及がない)を身につけた状態と、身につけていない状態で、差異があるかどうかを測定しています。
その結果、「全身反応速度」においては16名全員、「筋力(握力)」においては14名、「柔軟性(立位体前屈)」においては15名に優位差が見られたとのことです。
しかしこの実験では、医薬品の効果を示す際に一般的な、被験者と観測者の双方に盲を課す「二重盲検法」どころか、被験者に盲を課す「単盲検法」すら取っていないため、偽薬効果(プラセボ効果)を否定することができません。
また、大学生による卒業論文なので、信憑性という面で不安が残ります。
使用した感想
ここでは、私と私の家族が実際に着用してみた感想を紹介します。
私たちが実際に使用した商品は次の2つです。
RAKUWAネックX100 ミラーボール
羽生結弦選手も試合で着用している、人気商品です。妊娠中の妻の肩こりを軽減する商品を探していた時、偶然訪れたファイテンショップで試着しました。すると、それまでマッサージや整体でも取れなかった肩こりが、ものの数分で楽になったそうです。私と違い、オカルトの類を信じやすい妻なので、プラセボ効果も否定できませんが、妊娠中も副作用なく使用できるため、即購入を決めました。
ブラックスピネルネックレス
こちらは妻がミラーボールを購入した翌日、自分も筋トレ用に使えるのではと思い購入した商品です。この商品はファイテンの店員が着用していたもので、店頭には置いていなかったため、取り寄せてもらいました。チタンはエンドパーツにしか使用されていませんが、ファイテンテクノロジーはRAKUWAネック以上に使用されているそうで、店員曰く、効果としてはX100の数倍あるそうです。
使用した感想ですが、私は普段、肩こりや腰痛などの不調がないためか、日常生活では効果を実感できませんでした。
しかし、着用してから初めてのトレーニングの際に信じられない体験をしました。
その日は背中のトレーニング日で、当時のトレーニングメニュー1種目のウェイテッドチンニング(加重懸垂)をしたところ、アップの段階から身体が異様に軽く感じられました。
そして、本セットに入ったところ、普段ならば調子が良くても前回のトレーニングと比較して+3回が良いところですが、この日は+6回という信じがたい記録が出ました。
念のためトレーニング後に体重をチェックしましたが、前回とほぼ一緒。
その他の条件も違いに心当たりがなかったため、純粋にネックレスの力だと想定されます。
この日はトレーニング前からネックレスの存在を非常に意識していたので、プラセボ効果も過分にあったとは思います。
しかし、普段から「もう一回」を意識して、積極的な追い込みをかけていた自分にとっては、+6回という事実は、プラセボ効果だとしてもショックな経験でした。
※現在は公式ショップでも売っていない非売品になっており、ファイテンショップの方曰く、炭化チタンチェーンネックレスに相当する商品とのこと。
ファイテンのまとめ
知るとプラセボ効果が薄れる可能性がある文章が含まれています。
ご了承いただける方のみお読みください。
もともと私はファイテン商品が嫌いでした。もっと過激にいうと、スポーツ・健康詐欺商品の一種として軽蔑すらしていました。その理由は、各ファイテンショップが店頭で行っている販売方法にあります。
多くのファイテンショップには、RAKUWAネックの効果を実体験できるコーナーが用意されています。そこではまず、紐の付いた2リットルのペットボトルを指先で持ち上げるように言われます。
そしてその後、RAKUWAネックを腕に巻いて、もう一度持ち上げるように言われます。そうすると、なぜかRAKUWAネックを巻いた、後の方がペットボトルが軽く感じます。
ファイテンではこれを、RAKUWAネックが血中のストレス濃度を下げたため、軽く感じるのだと説明しています。しかし、これは誤りです。試しにRAKUWAネックではなく、普通のネックレスを巻いて試してみましょう。同じような体験ができるはずです。
これは、指で物を持った際、腕に軽い負荷をかけると感覚的に持っている物質が軽く感じるという、心理的なトリックを利用したに過ぎません。そのため、このようなデタラメを風潮するファイテンの商品は、その効果もインチキだと決め込んでいました。
しかし、ファイテンの販売方法に問題があるとはいえ、その商品まで効果がないと判断するのは早計でした。実際に購入して着用した自分自身の経験から、プラセボ効果を含めて、ファイテン商品は効果があるというのが、今の私の意見です。
特に、筋トレの停滞期に陥っている方にとって、プラトーを打ち破る、きっかけになると思います。
科学的根拠が薄いため、価値判断が難しいファイテン商品ですが、筋トレを習慣としているトレーニーは、一度試してみるべきと思います。
購入の際の注意
RAKUWAネックをはじめとするファイテン商品には、現在、多くのコピー商品、ニセモノが出回っています。
ファイテン商品の肝は、ファイテン独自の特許技術にあるため、類似品では効果を期待できませんので、商品の購入は、信頼のおけるショップでおこないましょう。